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「お前のことが、大嫌いだよ」
それが、いつものように大声で罵られたのなら、どんなによかったことか。
「なっなんなんですよ、いきなり」
いきなり、だ。
前置きも前振りも脈絡もなくいきなり。
榎木津はいつも通りに机の上に両足を投げ出し、そのまま眠りそうな半眼になっていた。
益田はと言えば、今日は榎木津の怒る依頼を受けた訳でも書類を作っている訳でもなく、
和寅は買い物に出ていて不在だけれども、勝手に珈琲でも淹れようかと立ち上がったところだったのだ。
前置きも前振りも脈絡もなくいきなりなんて、榎木津の普段の振舞いそのものであり、
それは今更そこに反応することもないようなものである。
しかし「バカ」だの「オロカ」だのではなく、「大嫌い」だ。
罵りだの蔑みだのの言葉なら幾らでも浴びせられ慣れている。
益田はそれを親しみの表現の一種なのであろうとすら思っていた。
益田は息を吸い込む。
榎木津は気紛れだ。
だからこれも、その気紛れの一瞬なのだ。
「そんなこと云われたって僕ァ出ていきませんからね」
陶製人形のような顔は、表情を失うと本当に人形のようだ。
先程、発せられた冷たい声に怯みそうな心を鞭打ち、益田は口を開く。
榎木津は無表情のまま立ち上がった。そのまま、益田に歩み寄る。
「な、何ですか。
僕は榎木津さんの弟子になるって決めたんですからね。
そんなこと言われたって、なに言われたって、ここに居座りますよ」
何も考えていないのに、口はするすると滑る。
榎木津の靴音が近づいてきた。
「僕ァ探偵助手です。
の上、榎木津さん云うように下僕です。仕えなくちゃあいけません。
榎木津さんが、……下僕を大嫌いだったところで」
益田の言葉は、そこで途切れた。
ばん、と身の竦むような音。
榎木津は益田の背後の壁を押さえつける。益田を追い込むように。
「な」
「おいナキヤマ」
「だから僕は」
「なに泣きそうな顔してるんだ」
「!」
見れば、そこにあるのは、いつも通りの探偵の顔。
多少、不機嫌そうでありこそすれ、無表情ではない。
「つまらん!オロカが騙されたのにちっとも面白くないゾ!」
「……だま、さ?」
その言葉の意味を考える。
騙された?
益田が怪訝そうに榎木津を見ると、榎木津はきっと睨み返してくる。
「今日は嘘を吐く日だというから嘘を吐いたのだ!
でなきゃ僕が嘘を吐く理由など何処にもナイ!」
そういう日には神だって嘘を吐くのだ!四角だって丸い!
榎木津はそう、叫んだ。
そう云えば、そんな風習があると聞いたことがあったような気がしないでもない。
実際、それに則ったことなど今までなかったが。
嘘、なのだ。
これは嘘を吐く理由など何処にもない探偵の嘘。
そして益田はそれに騙された挙句、つまらんつまらんと云われているのだった。
「……あの、榎木津さ」
「なのにお前は何ダ!ナキヤマ!」
「僕ァ大人しく騙されただけじゃあないですか……」
「もっと面白く騙されろ!」
「んな無茶な」
益田の全身から力が抜ける。
実際、自分は泣きそうだったのだろう。
力が抜けた途端、何だか涙が零れそうになった。
おい、泣き泣きナキヤマ。
そう榎木津は呼ぶ。
「……何ですよう」
「何だその緩んだ顔は。泣いてたかと思ったらキモチワルイぞ!」
そんなこと、云われても。
「だって、」
「まったくお前は」
ほんとに僕のことが好きなんだな!と、
何の迷いも無く、心なんて見えよう筈もないけれど、
きっと手に取るように分かるのだろう、
榎木津は云った。
安心する。
この一言が、自分にとってこんなにも。
「……その通りなんですよ」
だから僕は、あんたの嘘に泣きたくなる。
益田がそう云うと、榎木津は鼻を鳴らし、
――でも何処か、満足げな表情をした。
***
オチが最初から見えている。
エイプリル・フールは大正あたりから入ってきたらしいです。
一般の人たちの間にどれくらい広まっていたものなのかよく分からないのですが。
榎さんは数日前に京極堂にて関口くんの「四月馬鹿ってあれは何なんだろうね」から始まった雑談に参加してた。
益田は聞いたことあるなくらいだった。
て、ことで宜しくお願いします!
つまり 榎さんは益田のこと大好きなんだよ。
そういう話だ。
たまに(頻繁かも知れない)消失してます。
消失先で益田のこと考えてにやにやしているでしょうが。
連絡等はコメント若しくは拍手からお願い致します。