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益田龍一が愛おしくて仕方が無いらくがきブログ。
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今日の榎木津閣下はご機嫌だ。

これはとても、喜ばしいことである。

数分前に寝巻でご登場あそばし、新しい朝が来た、希望の朝だなどと喚いた榎木津は、今は再度自らの寝室に戻り、何やらごそごそしている。
益田はペンを持った手を緩め、横目で寝室の扉をちらと見た。
榎木津がご機嫌だろうが不機嫌だろうが、下僕が何らかの被害を受けることは、榎木津の近くにいる以上、避けられないことである。
しかし、ご機嫌なときに受ける被害は、不機嫌なときに受ける被害よりは数百倍ましだ。
であるから下僕たる益田にとって、榎木津閣下がご機嫌であることは、とても喜ばしいことであった。

ばあん、と破壊的な音がして、榎木津の寝室の扉が開く。
榎木津の扉の開け方は常に乱暴で、益田は扉が壊れやしないのかといつも心配になるのだが、蝶番が外れたり扉が吹き飛んだりの被害は今のところ見たことがない。薔薇十字探偵社の扉は、随分と頑丈に作られているようだった。
先ほど榎木津が寝室でごそごそしていたのは本日の衣裳を選んでいたのだろう。
身体全体が紅葉したかのような色の上着を着た榎木津は、革靴の音も高く事務所に躍り出た。

「出掛けるぞ!」
「はあ、行ってらっしゃい」

益田が云うと、寅吉の声が、先生じゃあ今日は先生の分の昼飯は要らないですか、と続く。
探偵社に当の探偵がいないというのも妙な話だが、しかし榎木津にそんなことを言っても無駄だろう。榎木津が出掛けると云ったら送り出すしかない。
変に留めようものなら忽ち榎木津は不機嫌になり、それはもう探偵とか探偵助手とか依頼主とかそういう次元の問題でもない、神の怒りが爆発することは目に見えているからだ。

「違う、お前も行くの」

しかし、そんな益田の腕を、榎木津は掴んだ。

「ええ?」
「出掛ける!」

榎木津の歩幅は広い。
お前も、の言葉に動揺していたのもあり、益田は半ば引き摺られるようにして、そのまま事務所を連れ出された。
探偵助手まで出ちゃったんじゃ今日はもう閉めるしかないなあ、と云う寅吉に、二人を止める気は微塵もなかった。



そうして益田が連れて行かれたのは喫茶店だった。
榎木津の行動が理解できないのは今更ではあったが、しかし今更であろうが何度めであろうが、疑問が頭の中を駆け巡るのを止めることはできない。

「早く決めなさい」

そう云ってメニューを渡される。
榎木津がどんなつもりで此処に来たのかは未だ分からない。
しかし、何にしろこうしてメニューを差し出されたのだから、何かを注文すればいいのだろう。益田はメニューに視線を落とす。
喫茶店に来るのは久しぶりだった。
メニューは珈琲に紅茶から始まり、ナポリタンやドライカレーが並ぶ。
そして益田の目は、無意識にその次の項に吸い寄せられていた。
ミルクセーキにクリーム・ソーダ、プリン・ア・ラ・モード。
その項には幾つもの甘味の名が連ねられている。
過去にそれを食したことは、ほんの数えるほどしかない。
それでも、そうであるからこそ、それらは益田にとってあまりに魅力的にして、誘惑的であった。

「はやく! ほら、女給がこちらへ来る」

しかし、――注文を訊かれた益田は、珈琲を、と云った。
それら甘味を、女子供の食べ物、と益田は決して云いたくはないのだが、しかしそう思っているのだろう。
成人男性の自分が喫茶店でそれを注文することに、どうしても気恥かしさがあった。
甘味処で善哉を頼むのに躊躇はなくても、喫茶店でクリーム・ソーダを頼むのには躊躇する。
そうして飲む珈琲は、決まって苦い。
益田が思っていることなど知らないし気にもしない榎木津は、云う。

「僕は、フルーツ・パフェ」

底抜けに嬉しそうな声と、見る者すべてを虜にする笑顔が溢れる。
注文をとっていた女給の動きが止まり、顔が赤らむのが益田には見て取れた。
裏返った声で只今、と云った女給は転がるように厨房へ去った。

「朝起きたらとてもフルーツ・パフェが食べたい気分だったのだ」

女給でなくとも、見蕩れるような笑顔だった。
益田は鼓動が早くなるのを感じる。
顔が熱いが、赤くなってやしないだろうか。赤くなっていなければいい。
心を落ち着かせるためにも、益田は、オジサンなのに、と口の中で呟く。

珈琲とフルーツ・パフェがテーブルに運ばれてくるのは矢鱈と早かった。先刻の女給が何か云ったのかも知れない。
フルーツ・パフェがテーブルに置かれた瞬間、榎木津は短く奇声を漏らし、スプーンを握る。
益田は珈琲を覗き込んだ。黒い。フルーツ・パフェが輝いて見える。
珈琲がいつも飲んでいるもの以上に苦く思えたのは、単にその味の所為だけでなく、至近距離からフルーツ・パフェの甘い匂いが漂ってくるからでもあっただろう。
榎木津は食事が下手だ。
フルーツ・パフェを相手にしてもそれは変わらないどころか一層その下手さが目立ち、手と口をクリームでべたべたにしている。拭ってしまいたかったが、食べてる途中で手を出しては、まだこの先も汚すのだろうから意味がない。そもそも拭うことができるかどうかは、それこそ神の機嫌に因った。益田はその問題を後回しにし、再び珈琲に口をつける。

「食べるか」
「えっ」

今日の榎木津閣下はご機嫌である。
ご機嫌であろうが不機嫌であろうが被害を受けるが、ご機嫌なときの被害は不機嫌なときの被害より数百倍まし、そんな榎木津の行動は、不機嫌なときよりご機嫌なときの方が予測不能であった。

「欲しいなら欲しいとはっきり云えばいいのに、何だお前は。ちらちらと、気持ち悪いな」
「いや、ええと欲しい訳では」
「あんなにもの欲しそうに見て、これで神の慈悲がなかったらお前は一生フルーツ・パフェを食べられないんだぞ」
「一生って」
「僕が食べることを許さない!」

最後の方は、よく分からなかった。
榎木津は金色の柄の長いスプーンの先にクリームやらいちごやらを山のように盛り、益田の眼前に突き出した。

「食べなさい」

有無を云わさぬ命令口調ではあった。
しかし、と益田は思う。
神の慈悲だ。
しかもこれは、神たる榎木津に、下僕たる自らが、甘やかされている。
どうしようもない優しさなのだ。
息が詰まる。
これこそ、――どうしようもない、と思う。
スプーンの先が煌めいた。

一口にスプーンの先を咥えると、口の中にくらくらするほどの甘さが広がる。
ちらと榎木津を見れば、これ以上ない満足そうな顔と、目が合った。
ああ、どうしようもない。

「珈琲のおかわりは――」

途切れた女給の声への反応は瞬間のことで、目だけがそちらを追い、口はスプーンを咥えたままだった。
その女給の表情を、益田は暫くの間、忘れることはなかった。



であるから、その後の数日間は、榎木津の顔を見る度に喫茶店での出来事を思い出すとともにその女給の表情を想起してしまう益田は、それが気に入らない榎木津に幾度も蹴飛ばされるのであった。







***

・甘いもの好きな益田
・甘いもの好きだけど気恥かしくて頼めない益田
・甘いもの食べるとにこにこしちゃう榎さん
・そんな榎さん見ながらかわいいなって思ってる益田
・食べたいものを食べたいときに食べる榎さん
・美味しいもの食べるときに益田を連れていってあげる榎さん
・益田が欲しがってたらあげちゃう榎さん
・益田のことがだいすきな榎さん

以上のもえを詰め込んだ感じです。
益田のことがだいすきで益田甘やかしちゃう榎さんが好きなんだよおお
プリン・ア・ラ・モードが食べたい益田とかどかわいいと思う。たまらん。
ああでも↑の中に榎さんの口とか手とか拭ってあげる益田が入らなかったのは残念!
甘いもの頼むのが恥ずかしいとか言ってるくせに、人前で榎さんの口拭うことに違和感を覚えてない益田!はあはあ
昭和の喫茶店が適当すぎてすみません。


書き終えてから別ジャンルで随分前にした妄想と被ってることに気付いたけどスルー。
どうしようもなく榎益で書きたかったからいいんだ!

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檜扇 (ヒオウギ)

たまに(頻繁かも知れない)消失してます。
消失先で益田のこと考えてにやにやしているでしょうが。
連絡等はコメント若しくは拍手からお願い致します。
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